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東京有明医療大学・松浦悠人先生に聞く、研究・臨床・電子カルテがひらく未来 ―

メンタルヘルス領域における鍼灸は今、大きな転換点を迎えている。
「経験をデータとして視覚化してエビデンスをつくる」
その変化の中心にいるのが、東京有明医療大学 保健医療学部 鍼灸学科 助教であり、鍼灸を専門とする松浦悠人先生である。
本記事では、メンタルヘルス領域における鍼灸研究の最前線と、電子カルテを含む臨床データが拓く未来について、松浦先生の言葉をもとに紐解いていく。
「心身一如」から始まった研究の原点
松浦先生がメンタルヘルス領域の鍼灸研究に関心を持ったのは、学生時代の学びがきっかけだった。
「腰痛の講義で“生物‐心理‐社会モデル”を学び、精神的ストレスや不安、不眠などのメンタル不調がきっかけとなり、腰痛につながることを知りました。心の不調が身体に現れるなら、逆に身体を整えることで心にも影響を与えられるのではないかと考えたのが原点です」
この問いはその後、研究テーマへと発展していく。
一方で背景には、現代医療の構造的課題もあった。精神科医療における薬物療法は有効である一方、副作用や治療抵抗性の問題を抱える患者も少なくない。
「医療の隙間にいる患者さんを支える選択肢が十分ではない。その課題に対して、鍼灸ができることを科学的に示したいと考えています」
メンタルヘルス領域における鍼灸の強み
鍼灸は“単なるリラクゼーション”ではなく、生物学的な機序が背景にある介入である。
松浦先生は、鍼灸の特徴を「全身の神経回路を利用したニューロモジュレーション治療」として捉えている。
「精神科領域の治療では薬物療法や心理療法が中心ですが、身体に直接触れて介入する治療は多くありません。鍼灸は皮膚や筋肉への刺激を通じて、自律神経や脳機能に影響を与える点が特徴です」
特に重要なのは、メンタル不調に伴う身体症状へのアプローチである。
痛み・自律神経症状・睡眠障害・倦怠感といった身体症状に対して、鍼灸は役割を果たし得る。
また全国に約7万件存在する鍼灸院は、地域における「社会的処方」の受け皿としての可能性も持っており、鍼や灸を施すという行為だけではない役割も期待されている。
「単なるリラクゼーション」を超えて
鍼灸のメンタルケアについて松浦先生は、「鍼灸は単なるリラクゼーションのみではない、神経生理学的な機序をもつ治療法であり、体性感覚刺激を通じて前頭前野、扁桃体などに影響を与える生物学的介入です」
また鍼灸師側にも、「会話量=カウンセリング効果」という誤解をもってはいけないと指摘する。言語的介入は専門的技術であり、心理療法の非専門家が不用意なカウンセリングを行うとかえって悪影響になりかねないとも考えている。
鍼灸×脳画像研究が示す“見える化”

松浦先生の研究の特徴は、鍼灸の作用を科学的に可視化する点にある。
主な研究テーマは以下である。
- うつ病・双極症に対する鍼灸の有効性とメカニズム
これらをfMRIやNIRSなどの脳機能計測で検証している。
実際に、鍼刺激により前頭前野の血流増加や、扁桃体など情動関連領域の変化が示唆される研究も報告している。
「鍼刺激中の脳活動や症状変化をリアルタイムで捉えることで、作用機序を説明できる形に近づいています」
臨床に眠る“リアルワールドデータ”の価値
松浦先生が近年特に注目するのが、鍼灸院に蓄積される臨床データである。
「鍼灸院のカルテには“生活の文脈”が含まれています」
主訴以外の微細な症状、生活背景、日常の変化、これらはリアルワールドデータとして非常に重要です。
「臨床研究の種は臨床現場にしかありません。カルテは宝の山です」
電子カルテは“研究基盤”へ進化する
紙カルテ中心の鍼灸業界において、電子カルテ化は単なる効率化ではない。
松浦先生はその本質をこう語る。
「電子カルテは業務効率化だけでなく、データの測定標準化と研究活用を促進します」
重要なのは以下の3点である。
- 共通評価指標による測定の標準化
- 継続的なデータ記録
- 後ろ向き研究・多施設研究への展開
つまり電子カルテは、臨床と研究を接続するインフラである。
リピクルが果たす役割
こうした文脈の中で、ケアクルが提供する電子カルテサービスリピクルは重要な位置を占める。
リピクルは、予約・問診・電子カルテ・画像管理・顧客管理・分析機能を一元化する治療院向けシステムである。
業務効率化に加え、日々の臨床データを構造化し、将来的な研究資源として蓄積できる点が特徴だ。
ケアクルはすでにカルテ数100万枚突破を公表しており、業界全体のデータ活用基盤としての役割を拡大している。
松浦先生の視点に立てば、重要なのは「特別な研究のためにデータを集める」のではなく、日常診療そのものを研究可能な形に設計することである。
鍼灸研究の未来は臨床データにある
松浦先生は言う。
「臨床研究の種は現場にあります」
今後重要になるのは以下の3つだ。
- 信頼性・妥当性のある評価指標
- 継続的な記録
- 医療連携に必要なデータ設計
これらが揃って初めて、鍼灸による“経験”を“科学”が支えることで進化する。
精神科医療と鍼灸の理想的な連携
松浦先生の理想は、対立でも従属でもない「パートナーシップ」である。
鍼灸師は患者の心身の不調をケアしつつ、必要に応じて患者を専門医療機関に紹介するゲートキーパーとして患者を支え、必要に応じて医療へつなぐ。
精神科医療は患者の減薬期・維持期における体調管理の一環として、また診断基準に満たない気分の不調や身体症状を訴える患者への選択として鍼灸を活用する。
「それぞれの強みを認め合う地域医療のパートナーシップが重要です」
鍼灸は“最初のセーフティネット”になれるか
松浦先生は未来をこう描く。
「メンタル不調のとき、薬以外にも鍼灸という選択肢がある社会にしたい」
鍼灸院が、未病段階の人々にとって最初の相談先となり、心身の不調を抱える方のセーフティネットとして機能する未来である。
松浦悠人先生プロフィール

東京有明医療大学 保健医療学部 鍼灸学科 助教。
博士(鍼灸学)、はり師・きゅう師。全日本鍼灸学会認定鍼灸師・指導鍼灸師、日本臨床疫学会 臨床疫学認定専門家。
専門はメンタルヘルス領域の鍼灸、鍼灸と脳画像研究。
精神疾患に対する鍼灸の作用機序解明、統合医療モデル構築、臨床データ活用研究に取り組む。
文献
Matsuura Y, et al,. An arterial spin-labeled magnetic resonance imaging study of brain activation in patients with major depressive disorder during acupuncture stimulation: An exploratory study. Psychiatry Res Neuroimaging. 2026 Aug;360:112220. doi: 10.1016/j.pscychresns.2026.112220.
監修者プロフィール
- 大学卒業後、東京医療専門学校に進学。鍼灸マッサージ師、柔道整復師の国家資格を取得。整骨院や整形外科などの医療機関にて臨床現場を経験し、その後カナダ・トロントへ留学。現地治療院にて臨床を経験し、帰国後、麻布十番に治療院を開業。
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