近年、女性を中心に美容鍼灸師の人気が急速に高まっています。かつては、体に鍼を刺すことに対して「怖い」「痛い」といったネガティブなイメージが先行し、多くの人々に敬遠されがちだった鍼灸ですが、美容という新たな領域と結びつくことで、近年では美容鍼の人気が再び注目されています。
美容鍼灸師に対する関心が高まる中で、「どのようにして美容鍼灸師になることができるのか?」といった疑問の声も少なくありません。そこで本記事では、美容鍼灸師を目指す方々に向けて、資格取得の方法や必要な費用について詳しくご紹介いたします。
目次
美容鍼灸師とは
美容鍼灸師とは、鍼灸技術を応用し、むくみやしわ、肌荒れといった美容上の悩みを解消する施術を行う専門家です。鍼灸治療では、経穴に対して刺激を与え、微細な傷を施すことで、体の再生力(自己治癒力)を最大限に引き出します。この基本理論を肌の再生や修復に応用したものが美容鍼灸です。
美容鍼灸の具体的な理論や施術法は、美容鍼灸師によって異なることがありますが、鍼灸技術を用いて美容効果を追求するという基本的なアプローチは共通しています。美容鍼灸師というと美容に特化した施術者という印象がありますが、実際には肩こりや腰痛などの身体的な不調に対しても施術を行うことがあります。
美容鍼灸師のニーズ
どの時代においても、むくみやしわ、肌荒れなどの肌に関する悩みは多くの人々に共通する問題です。このため、美容鍼灸師の需要は自然と高まっていきます。さらに、近年では老若男女を問わず美容意識が高まっており、女性だけでなく男性の利用も増加しています。また、年齢層も広がりを見せており、美容鍼灸師へのニーズは今後ますます高まると予測されます。
美容に関連する代表的な施設としては美容外科がありますが、美容鍼灸師の技術を活用した美容サロンやエステ、そして美容に特化した鍼灸院などは、美容外科の代替となる存在として、今後さらにその範囲を広げていくことでしょう。
美容鍼灸師には国家資格が必要
美容鍼灸師として活動するには、通常の鍼灸師と同様に「はり師」と「きゅう師」の国家資格が必須です。これらの資格を取得するためには、指定された養成機関で必要な教育を修了し、年に一度実施される国家試験に合格する必要があります。
例えば、昨年度(令和5年2月25日(土)および26日(日)実施)の「はり師」と「きゅう師」の国家試験における合格率は、はり師が70.4%、きゅう師が71.7%となっています(※1)。
(※1)第31回あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師国家試験の合格発表について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
そのほかにあると便利な資格
「はり師」および「きゅう師」の国家資格を保有していれば、法律上、美容鍼灸師として活動することが可能です。しかしながら、これらの資格に加えて取得しておくと、美容鍼灸師としての活動範囲をさらに広げることができる追加資格もいくつか存在します。これらの資格について、詳しくご紹介いたします。
あん摩マッサージ指圧師
あん摩マッサージ指圧師とは、「あん摩」「マッサージ」「指圧」といった技術を駆使して体の不調を調整する施術者であり、鍼灸師と同様に国家資格を有しています。一般的に「マッサージ」という表現が広く使われていますが、実際にはマッサージを行うことができるのはあん摩マッサージ指圧師(医師を含む)の資格を持つ者に限られます。資格を持たない者が「マッサージ」と称して施術を行うことは法的に認められていません。
あん摩マッサージ指圧師の資格を取得するためには、鍼灸師と同様に、指定の養成機関で必要な教育を受け、年に一度実施される国家試験に合格する必要があります(昨年度の合格率は88.6%です)。
美容鍼灸師として活動する際にあん摩マッサージ指圧師の資格を保有していると、マッサージとのセットメニューの提供や、むくみやたるみへの手技療法が可能となり、顧客満足度の向上が期待できます。
AJESTHE認定エステティシャン
AJESTHE認定エステティシャンとは、エステティシャンとしての知識と技術を証明する民間資格です。この資格にはさらに上位の認定資格があり、具体的には「AJESTHE認定上級エステティシャン」と「AJESTHE認定トータルエステティックアドバイザー」があります。
資格を取得するためには、認定校での研修を修了するか、1年以上の実務経験を経た後に、実技および筆記試験に合格する必要があります。
AJESTHE認定エステティシャンを持っていなくても美容エステ業務を行うことは可能ですが、国家資格が存在しないエステサロン業界において、知識や技術の証明として高い認知度を誇るこの資格を保有することは、美容鍼灸師として活動を行う上で大いに役立つ資格の一つです。
〇一般社団法人日本エステティック協会 (ajesthe.jp)
AEA認定エステティシャン
AEA認定エステティシャンは、AJESTHE認定エステティシャンと同様に、エステティシャンとしての専門知識と技術を証明する民間資格です。この資格にもさらに上位の認定があり、具体的には「AEA認定上級エステティシャン」と「AEA認定インターナショナルエステティシャン」が存在します。
美容鍼灸師として活動する際にAEA認定エステティシャンを取得しておくことは、エステティシャンとしての知識や技術を証明する有力な手段となります。AEA認定エステティシャンとAJESTHE認定エステティシャンの間には、協会の違いを除けば、権威性や試験の難易度において大きな差はありません。そのため、認定校の立地、会費、更新料などを比較し、ご自身のニーズに最も合った資格を選択することをお勧めします。
アロマなどの資格
美容サロンで広く利用されているアロマに関する資格も、非常におすすめです。アロマセラピーは、植物(花や薬草、木々)から抽出された精油(エッセンシャルオイル)を香りとして吸入したり、皮膚に塗布することで、美容効果やリラクゼーション効果が得られる補完代替療法の一つです。
アロマセラピーに関する国家資格は存在しないため、民間資格の取得が必要です。中でもおすすめの資格には「アロマテラピー検定」と「アロマテラピーアドバイザー」があり、これらはいずれも(公社)日本アロマ環境協会によって認定されています。これらの資格を取得することで、アロマセラピーの専門知識と技術を習得し、美容サロンでのサービスの幅を広げることができます。
〇(公社) 日本アロマ環境協会 | 検定・資格 (aromakankyo.or.jp)
働きながら美容鍼灸師の資格は取得できる?
働きながら美容鍼灸師の資格を取得することは十分に可能です。具体的には、「午前コース」や「夜間コース」を提供している養成機関に通う方法があります。
午前コースの場合、授業は正午前後に終了するため、午後からアルバイトや他の仕事をしながら通うことができます。一方、夜間コースでは、授業が午後6時から7時頃に始まるため、日中は通常の勤務を続けながら学ぶことができます。
各養成機関によって、授業の開始時間や終了時間は異なるため、詳細については各養成機関の公式ウェブサイトを確認することをお勧めします。
また、働きながら資格取得を目指す方が通信講座を検討することも多いですが、現時点では「はり師」や「きゅう師」の通信講座を提供している養成機関は存在していません。
美容鍼灸師になるためにかかる費用
美容鍼灸師になるための費用は、一般的に「300万〜500万円」が目安とされています。その中でも、最も大きな割合を占めるのが養成機関での学費です。さらに、教材費や実技で使用する白衣、器具などの費用も含まれます。
養成機関によっては、授業の一部が免除される特待生制度や奨学金制度を提供している場合もありますので、各養成機関の公式ウェブサイトで詳細を確認しておくことをお勧めします。
また、柔道整復師や理学療法士などの関連資格を既に保有している場合、一部の授業が免除されることがあり、その結果として学費が減額されることもあります。
美容鍼灸師の年収
美容鍼灸師が美容に特化した鍼灸院や美容サロンで働く場合の年収は大きく幅があり、具体的な金額を示すことは難しいです。しかしながら、一般的な鍼灸院での鍼灸師の年収はおおよそ300万〜400万円とされています。
美容に特化した鍼灸院や美容サロンでは、客単価が高くなる傾向があり、集客が成功している施設では、年収が400万円を超える可能性もあります。また、美容鍼灸師として独立して開業した場合、成功すれば年収に制限はなく、非常に高い収入を得ることも可能です。
美容鍼灸師と一般的な鍼灸師の違い
美容鍼灸師と一般的な鍼灸師の主な違いは、対応する顧客のニーズの違いです。一般的な鍼灸師は、体の痛みやしびれなど、主に身体の不調を改善するための施術を行います。
一方、美容鍼灸師は、顔のむくみ、しわ、肌荒れなど、美容に関連する問題に対して施術を行います。
一般的な鍼灸師にとっては美容に関する専門知識はそれほど重要ではありませんが、美容鍼灸師には、最新の美容アイテムやトレンドに関する知識を常にアップデートしておく必要があります。美容鍼灸師は、美容業界の動向を把握し、顧客の美容ニーズに応えるために、専門的な知識を継続的に学ぶことが求められます。
まとめ
美容鍼灸師についてご紹介いたします。美容鍼灸師として従事するためには、「はり師」および「きゅう師」の国家資格を取得する必要があります。これらの国家資格を得るためには、3〜4年間の養成機関での学びと、その後の国家試験に合格することが求められます。
ただし、夜間コースや午前コースを利用すれば、働きながら資格取得を目指すことも可能です。
美容鍼灸師としては、「はり師」と「きゅう師」の国家資格以外に特別な資格は必要ありませんが、あん摩マッサージ指圧師やAJESTHE認定エステティシャンなどの追加資格を取得することで、顧客からの信頼を得やすくなります。
美容鍼灸師の年収には大きな幅があり、一概に数字で示すことは難しいですが、独立開業し成功すれば年収に上限はありません。これから美容鍼灸師を目指す方は、まず「はり師」と「きゅう師」の資格を取得することから始めましょう。
その後は、常に最新の美容トレンドを把握し、他の誰にも負けない美容の知識を磨くことが重要です。
監修者プロフィール
- 大学卒業後、東京医療専門学校に進学。鍼灸マッサージ師、柔道整復師の国家資格を取得。整骨院や整形外科などの医療機関にて臨床現場を経験し、その後カナダ・トロントへ留学。現地治療院にて臨床を経験し、帰国後、麻布十番に治療院を開業。
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